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土地を「有利な資産」と考える人は平成初期の1/3に 日本人の「土地離れ」が加速中?

朝倉 継道朝倉 継道

2022/07/25

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イメージ/©︎navapon・123RF

令和の始まりは日本人の「土地離れ」の始まりか

この6月に、国土交通省より令和4年版「土地白書」が公表されている。注目したい箇所がある。日本人の土地に対する意識について、近年急激な変化が起きているのではないか——、そんな様子が浮かび上がっているので紹介したい。

単純には、平成の初期に比べ、土地を「有利な資産」と考える人は1/3以下に減っている。しかも、そうした傾向はここ数年急拡大している。

このままの状況が進むようであれば、令和の幕開け=日本人の価値観における「土地離れ」が始まった時期として、あとから振り返られる可能性も出てきそうだ。

急激に減る「土地は有利な資産」だと思う人

白書によると、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か?」との質問に対し、ここ3年にわたり人々はこのように答えている。

令和元年度(2019)
そう思う 27.1%
どちらともいえない 21.4%
わからない 6.2%
そうは思わない 45.3%

令和2年度(2020)
そう思う 21.5%
どちらともいえない 31.2%
わからない 18.6%
そうは思わない 27.3%

令和3年度(2021)
そう思う 17.4%
どちらともいえない 35.8%
わからない 18.0%
そうは思わない 27.5%

見てのとおり「そう思う」(=土地は有利な資産だ)が、27.1% → 21.5% → 17.4%と一気に下がってきている。実は、この数字は平成30年度(2018)以前には一度も30%を切ったことがなかったものだ。

そこで、時代をややさかのぼり、平成5年度(1993)の数字を挙げてみよう。

平成5年度(1993)
そう思う 61.8%
どちらともいえない 11.4%
わからない 5.6%
そうは思わない 21.3%

このとおり、令和3年度の「そう思う」(17.4%)に比べ、平成5年度の「そう思う」(61.8%)は3.5倍以上にのぼっていたことが判る。逆にいうと、いまは平成初期の頃に比べ、「土地は有利な資産だ」と思う人の割合は1/3以下にまで減っていることになる。なおかつ、さきほども述べたように減少のペースは近年急激だ。

答えの出せない人がマジョリティーに

さらに、上記のデータにおいては、近年もうひとつ特徴的な傾向が示されている。それは「土地は有利な資産か」と問われても、人々がそれに答えにくくなっていると見られる現状だ。

さきほど挙げた数字の一部をいじってみよう。

令和元年度(2019)
(土地は有利な資産か)どちらともいえない+わからない 計27.6%

令和2年度(2020)
(同上)どちらともいえない+わからない 計49.8%

令和3年度(2021)
(同上)どちらともいえない+わからない 計53.8%

参考:平成5年度(1993)
(同上)どちらともいえない+わからない 計17.0%

このとおり、土地は有利な資産かと問われても、はっきりYes・Noを言えずにいる人がいまは半数を占めている。「聞かれても答えにくい」が、実のところマジョリティーとなっているわけだ。その理由は何だろうか?

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保有価値から利用価値へ

土地白書からさらにデータを拾っていこう。「土地を資産として有利と考える理由」を人々に尋ねた結果だ。なお、人々とは、さきほどの質問=「土地は有利な資産か」に対して「そう思う」を答えた方々となる。ここに顕著な数字が見えている。

その数字とは、「土地は有利な資産だ」と思うその理由として、「土地は生活や生産に有用だ(役に立つ)」を挙げた人の割合を指す。令和元年度以降、この選択肢のみがほかに飛び抜けて急激な増加を見せている。以下のとおりだ。

土地は有利な資産と考えるその理由として…

「土地は生活や生産に有用だ(役に立つ)」を挙げた人の割合

平成30年度(2018) 12.5%
令和元年度(2019) 24.9%(ほぼ倍増)
令和2年度(2020) 34.2%(8選択肢中、単独首位)
令和3年度(2021) 29.6%(同じく同率首位)

ちなみに、この選択肢=「土地は生活や生産に有用だ(役に立つ)」における平成30年度以前の最高値は20.9%で、それ以外は平成7年度(1995)以来、つねに10%台を上下してきている。よって、上記の令和元年度~3年度にかけての動きはまさに急伸といえるもので、実に特異な傾向となっている。

以上から、結論または一定の仮説が導き出せそうだ。

まず、ここ数年「土地は有利な資産」であると一律的に判断する日本人は一気に減ってきている。

理由は、われわれが土地に見出す価値が、多くの人において保有資産としての価値から利用資産としての価値に変わったことが大きい。

すなわち、土地ならば一律に価値がある=保有価値があるのではなく、それを利活用したうえで利益や恩恵を得られる土地にこそ価値がある。そうでない土地には価値がない——そうした考えが、人々の意識のうえでにわかに明確になり始めたのが、令和が始まってからの数年間といえるだろう。

繰り返すが、いまは「土地は有利な資産か」と単純に聞かれても、多くの人にとってそれはYes・Noの答えにはなりにくいということだ。

投資家には以前より当然のこと

もっとも以上の話は、過去よりいわゆる土地活用を行ってきた投資家などにとってはすでに当たり前のことに過ぎない。日本における土地への一律的かつポジティブな価値観は、バブル崩壊、リーマンショックなどの節目、節目も経ながら段階的に崩れてきている。そのうえで、現在は減少に転じた人口が、土地へのニーズをかたちづくる土台そのものを揺るがす地すべりとなって、動き出しているというのが事実だろう。

よって、いまは土地の価値は漫然と一律ではない。繰り返すがこれを使い、利益や恩恵を得られる土地は資産価値をもつが、そうではない土地は価値をもたない。どころか、余計な管理コストを生み出し続けるという意味で、いわば重荷ともなる。つまり“負動産”だ。

土地離れはわれわれの試練のひとつ?

一方、そのうえで注目したいのは、紹介した白書のデータについて、これらは当然ながら投資家を集め、尋ねたアンケート結果ではないということだ。

数字の出どころは、国交省が毎年行っている「土地問題に関する国民の意識調査」というもので、対象者は各自治体の住民基本台帳から無作為抽出されている。 

つまり、土地は有利な資産だと考える人の急減も、土地は生活や生産に役立ってこそ有利な資産だとする人の急増にあっても、これらはごく一般の人々の間で広く生じているものだ。いわば「目覚め」を示すものといってもいいだろう。

長らく、われわれ多くの日本人にとって「土地を持っている」という言葉は、「現金を持っている」ことと同じ響きをもつ雰囲気があった。だが、そんな常識はどうやらここ数年で急激に崩壊している。

これは、ある部分日本人の“土地離れ”といってよく、「一国一城の夢」ではないが、人生をもって何を勝ち得るかという意味でのよすがをも失うという意味で、試練のひとつといっていいのかもしれない。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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